りょまち日記

下書き、というよりは書き損じの手紙

おかあさんのおなら

 

《おかあさんのおならをした後の「どうもあらへん」という言葉が 私の今の支えです》

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【日本一短い「母」への手紙】という本を買った。

昔一度買って、引っ越しのときに手放してしまったけれど、こないだ古本屋で見つけたのでまた買ってしまった。

 

〔本書は平成五年度の第一回「一筆啓上賞-日本一短い『母』への手紙」(福井県丸岡町主催、郵政省後援)の受賞作品を中心にまとめたものである〕原文引用

 

応募資格は問わず、誰でも応募していいよー!ってな感じの公募にて、「母への想い」を綴る短い詩を募集し、その受賞作品をまとめた本らしい。

 

「母親」というのは、百の家庭があれば百の母親がいて、いない場合もあり、必ずしもその存在というのは、思い出せば胸が温まるというようなものばかりではないのかもしれないけれど、あくまで個人的に、俺はこの本を読んで胸がじんわりと濡れるような気持ちになったので、ちょっと紹介しちゃおうかなと思います。

 

*おかあさんのおならをした後の「どうもあらへん」という言葉が 私の今の支えです

(大阪府・30歳・女性)

 

おならってやさしいと思う。

まず言葉がやさしい。おなら。ひらがなも丸っこくてかわいい。

多分、この詩のおならは「ぷーーっ、ぷすっ」だったと思う。いやお前それ今実出ただろ絶対って感じのリアルさよりは、あら、出ちゃったわふふって感じのかわいらしさ。そしてちょっとくさい。

そこで言うおかんの「どうもあらへん」

あったかいなあ。きっと作者はお母さんに愛されてるんだろうなってあったかさまで伝わってくる。

ところで、

おならというのは人間関係によって様々な立ち位置を持つものだと思う。

あなたは恋人の前でおならをできますか?

恋人が突然目の前でおならをしたらどう思いますか?

むかーし、むかし。

当時お付き合いしていた女の子とわたし。

若い僕らはお互いオナラなんてしたことないですよーって顔で過ごしておりました。

そんなある日、夕陽の射し込む部屋の中、恋人特有のあのこちょばしあいが段々とヒートアップし、本気を出しすぎた僕の腕の中で突然響いた

「ブブッ‼︎」

という振動。

「あっ、おなら出ちゃった..」

あの瞬間、僕は、「あ、なんだろ、この気持ちは、愛かもしれない」と思いました。おならで気付く愛もある。

 

*弘君のまねして お母さん と呼んでみた やっぱりダメだ かあちゃんが遠くなる

(群馬県・45歳・男性)

 

人の名前を呼ぶとき、その名前には、あなたとその人との歴史が詰まっている。

例えば、俺の名前はリョーマだが、あなたが俺のことを「りょーま!」と呼んでくれるとき、その「りょーま」にはあなたと私が出会ってから今までの重さがある。

昨日出逢った「りょーま」なのか、

10年前からの「りょーま」なのか。

幼馴染の名前を途中からいきなり違う呼び名で呼ぶことはできない。俺も、小学校からの親友(くすぐったくてヤな言葉ね)がいるが、そいつのことは20年近く経った今でも苗字で呼んでいる。そいつの名前はリョウっていうんだけど、俺の中でそいつはリョウじゃない。リョウという名前にはなんの歴史もないのだ。

そう考えると、母親は、生まれてから一番長い歴史をもつ呼び名なのかもしれない。

そりゃあ、かあちゃんを今さら「おかあさん」なんて呼べないわけだ。

 

*母ちゃんごめんネ 背中におしっこかけないから もう一度おんぶして》

(群馬県・60歳・男性)

 

おむつ穿いてなかったんだろうなあ。

トイレトレーニング始めて、お兄さん用のパンツ穿いてたけど、久しぶりにお母さんのあったかい背中にくっついてたらなんだか眠くなってきちゃって、気づいたらおしっこ漏れちゃって、

そしてきっと、何歳になっても、大人になってからも、何度も何度も、背中をべちゃべちゃにされたその日のことを、お母さんは愛おしそうにあなたに話し続けたんだろうなあ。

 

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飾らない言葉というのはいいものですね。

どうしても、その分野の専門家や、ある程度お勉強をしている人間というのは、気持ちのままに素直に表現というのができなく(しなく)なってしまう。

特に詩の世界になると「手垢のついた表現は避けて」「もっと比喩を使わなければ」「ラブソングに"愛してる"なんか使えない!」ってなことは往々にしてあります。

 

なので、この本の中できらめく「ありがとう」や「愛してる」という言葉たちは、その言葉の持つ純度そのままに、きらきらいきいきと胸を張っているように見えました。

 

他の作品たちも言わずもがな素晴らしい言葉ばかりなので、気になるあなたは是非、その手のひらの中で開いてみてね。

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*両手で顔をつつみこむ この半分はあなたの匂い 私の中にあなたが息をしている

(札幌市・27歳・男性)