りょまち日記

下書き、というよりは書き損じの手紙

スローバラード

 

中学二年生のある夜、0時くらいだったかな

 

二階の自分の部屋から一階のキッチンに水を飲みに降りてみるとふと、母親が居間でテレビ観ながらしくしく泣いていた。

 

お、なんやおかん泣いとるの久しぶりに見たな。

 

と思いながらコップ片手に出てみると、テレビには何やらキラキラしたステージにキラキラしたおっちゃんが歌ってる映像が映ってた。

 

 

"昨日はクルマの中で寝た、あの娘と手をつないで"

 

母親の涙と、液晶ん中で汗を流してるキラキラしたおっちゃんのコントラストがなんだかとっても美しくて、

 

「あ 俺多分この景色一生忘れないだろうな」

って思った。

 

 

2009年5月2日

忌野清志郎が死んだ。

 

まあそれは特に、今回どうでもいいんだけど。

 

あの夜から俺の中にキヨシローが住み始めた。

 

 

その後

ひょんなことから俺は歌い始め、

ひょんなことから20歳くらいのときにやった全国ツアーで、忌野清志郎とずっと一緒にツアー廻ってたというイベンターのおっちゃんと仕事をした。

 

そのおっちゃんに「清志郎はレジェンドですよね」と言うと、普通に怒られた。

 

おっちゃん曰く

「レジェンドってのは死んで伝説になった人間のことを言うんだ。清志郎は確かに死んだけれども、あいつの仕事はまだまだ山積みだ。俺はあいつの仕事でてんやわんや、まだまだ終わってなんかない。だからレジェンドなんか言葉であいつを表現するな」

 

みたいなことを言ってた。

 

なんとなく言いたいことは分かった

気がした。

 

 

まあでもそんな話は今回どうでもよくて。

 

 

おかんがしくしく泣いてたあの夜、初めて聴いたキラキラのおっちゃんが歌ってた曲。あれほんと好きなのよね。

「スローバラード」って歌なんだけどみんな知ってますか?

 

 

"昨日はクルマの中で寝た
 あの娘と手をつないで
 市営グランドの駐車場 
 二人で毛布にくるまって "

"カーラジオからスローバラード
 夜露が窓をつつんで
 悪い予感のかけらもないさ
 あの娘のねごとを聞いたよ
 ほんとさ 確かに聞いたんだ"

"カーラジオからスローバラード
 夜露が窓をつつんで
 悪い予感のかけらもないさ
 ぼくら夢を見たのさ
 とってもよく似た夢を"

 

 

うんうん、あの娘の寝言を聞いた

たしかに聞いたよな

 

でもどんな寝言かは

絶対他の誰にも言わないよな

 

そして

 

夢を見たんだな

二人とってもよく似た夢を

 

でもどんな夢だったかは絶対誰にも言わないよな

 

 

 

秘すれば花、じゃないけど

説明しないうつくしさ とはこういうことを言うんだろうなあって、がきんちょわいは思い知らされた夜でした。

 

んで

その夜から一年後くらい、

 

当時弟のように可愛がってくれていて自分も大好きだった年上お姉さんから突然

「あたしもう少しで結婚することになったから、その前に一回デートして。」

 

と言われる絶賛思春期爆発中の私。

 

そういった際の処世術をまだ何一つ身に付けている筈もないがきんちょはそれでも必死に、夏祭りやらドライブやらご一緒した後、いよいよ夜も更けもういっそどうにでもなれとこれまた思春期特有謎の全能感を抱きつつしかしそれとは裏腹に全身が心の臓と化してしまったかのような緊張感と反比例するように湧き上がるライカマグマな欲望をひりひりと感じながらやはり、

 

 

市営グラウンドの駐車場に居た。

ちなみに助手席である。

 

 

「結婚、たのしみですね」

「また遊びましょうね」

 

そんな、くだらない、夏と秋の間に吹く生暖かいけどちょっとさみしい風のような、要するにまあ、そんなどうでもいい話をしながら、結局少しずつ眠りについた。

 

あの夜あのとき抱いた感情は、さみしいでもかなしいでも嬉しいでもなく、「カーラジオ一曲分」でしか表現できない気持ちだったな。

もう、寝言を言ってたかも夢を見たかどうかも思い出せないんだけどね。

 

ちなみに、そんときカーラジオから流れてたのはカーペンターズでした。

 

あれ、結局何を言いたかったんだか全く思い出せないんだが、これを書き始めてからここまでにゴーマル缶を3本も空けてるところを見ると、まあどうでもいいようなことだったんでしょう。

 

一生忘れないだろうな って景色を

 

たくさんたくさん見つけながら生きていきましょうね。