りょまち日記

下書き、というよりは書き損じの手紙

「わたあめ」

 

 

「ねえ、さみしい」

 

自分でも驚くほど自然に、そして無意識に呟いていた。まるで胸の奥にしんしんと降り続いていた雨がやがて許容量を越え、しずかに唇の端からこぼれ落ちるように、自然に。

 

こぼれたその瞬間から言葉は温度を持つ。たとえそれが自分でも気付かないフリで、ずーっと密かに隠しておいた"とっておき"の言葉だったとしても。放たれた瞬間から血が通いだし、産声を上げ、見て見ぬふりなど到底できない温度を持ってしまう。

 

 

「どうして?一緒にいるのに、変なこと言うなあ」

 

 

この人は知らないのだ。一人でいるときのさみしいと、一緒にいるときのさみしいは似てるようで全く別のいきものだということを。もっと言えばあなたといるときの方が"さみしい" のに。

一人でいるときのさみしいがこの世全ての"さみしさ"だとなんの屈託もなく信じてしまうようなこの愚かさとかなしさとそして、真っ直ぐさに驚き、救われた。そしてその真っ直ぐさに撃ち抜かれた胸から今流れ出している滴は、たぶんこれもさみしさだ。

 

「どうして?一緒にいるのに、」

 

どうして?

説明しようとすればいくらでも出来るような気もするし、どんな言葉を使ったって伝えられない気もする。

ただ、目の前のこの愚かで真っ直ぐな男を私は愛しているし、きっとこの男も私を愛している。そして、同じくらいこの男を愛している人間(だれか)がいることも知っている。だけど別にそれがかなしくてさみしいわけじゃない。例えそうだとしても、それを理由にしてしまうことは一番かなしいことだ。

 

ー 返す言葉が見つからず、宙にふわふわ漂ってしまった「どうして」を見つめるようにぼんやり眺めていた、茶色くしなやかに伸びる指の先には深く切りすぎた爪がちょこんと光り揃っている。きっと、私はこの指を一生忘れないだろうな。

 

「ううん、なんでもないや。あ、雨上がったねえ。もうディズニーも今日はやってるのかな」

「ああ、午後からはやるかもね。でも電車が動いてないんじゃ今日はガラガラかもなあ。行ってみる?」

 

"得体の知れないさみしさ"を感じてる私のために捻り出されたやさしさ。そう、この人はやさしいんだ。そしてそのやさしさに少しずつ私の心は殺されてしまった。麻酔を塗ったナイフで少しずつ削がれるように、いとしい傷跡たちだけを残して。

"でもね、電車が動いてないのにどうやって行くの?"

私は、もうほとんど泣いていた。けれど愚かな彼は気づくはずもないし、心の中で呟いたはずの言葉もやっぱり口の端からこぼれ落ちてゆく

「たしかに、じゃあ電車が動き出したら行こうか。多分午後からは大丈夫だよ。それにしても昨日の台風が嘘みたいだねえ。ぐるぐるとかき混ぜながら雨も雲も全部持ってっちゃったのかな。わたあめみたいなやつだ」

 

ぶつぶつ"やさしさ"を垂れ流す背中を後ろからそっと抱きしめる。大丈夫、もうこのやさしさはいらない。外はこんなに晴れているしこの人の背中はこんなにあったかい。きっと、私が知るずっとずっと前からちゃんと温かかったんだ。胸の奥に降り続いていた雨はいつのまにか上がっていた。かなしみとかさみしさとか、ぐるぐるぐるぐるかき混ぜながら目の端っこから落っこちて あなたの背中に溶けていったことも、たぶんあなたは気づかないんだろうな。

 

 

「ありがとう。ほんと、わたあめみたいだね」

 

 

 

そろそろ、電車は動き出す。

茶色くしなやかな指先が一瞬私の頬を探す。

きっと、私はこの指を一生忘れない。

 

 

 

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こんな歌、うたってます。

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